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IoTによる植物工場の活性化に期待

農業従事者の高齢化、自給率の低下、狭い国土など、日本の農業は厳しい環境にあると言われています。その一方で、IoTなどの先進技術の導入によって、参入する事業者は急増中。農業の新しい可能性について見ていきます。

植物工場のシステム制御を支えるIoT

先進技術を導入した農業を語る上で、「植物工場」をはずすわけにはいきません。屋内施設で光や水、温度を管理して無農薬の野菜を育てる、まさに工場のような栽培スタイルです。この分野ではオランダが大成功しており、日本政府もそれに追いつこうとさまざまな政策を打ち出してきました。その一例として、農林水産省と経済産業省が総額150億円の補助金を出して建設を促進。その効果もあって、植物工場は2009年には全国で約50カ所しかありませんでしたが、2012年には127カ所まで増加。とくに東日本大震災後は、被災地でも津波による塩害や放射能汚染を避けながら栽培できるとあって注目が集まりました。さらに大和ハウス工業、日本GE、パナソニック、富士通といった大企業が植物工場の分野に続々と参入し、この流れを後押ししています。

植物工場は天候の影響を受けにくい反面、温湿度や照明、養分濃度などの制御に手間がかかるのが難点。この制御にひと役買っているのがIoTです。例えば富士通グループでは、2013年から福島県会津若松市の半導体工場を植物工場に転用し、レタスの生産を開始しました。この植物工場では複数の装置が連携し、センサーからのデータ収集や空調などの制御を自動で行っています。

「IoTで完全管理のLEDで育てる植物工場」でも触れていますが、徳島県徳島市のスタンシステムでは、IBMのクラウド技術SoftLayerを活用して、自動制御式のLED植物工場を展開しています。太陽光の代わりにLED光を当てて植物を育てており、SoftLayer上で動いている制御システムが、LED光の色や照射時間などを厳密にコントロール。これによって栽培効率を高めています。

軌道に乗せるにはまだ課題が山積み

このように注目を集めている植物工場ですが、事業を軌道に乗せているところは、まだほとんどありません。今年の6月には、この分野でトップを走っていた農業ベンチャー・みらいが約10億9200万円の負債を抱えて倒産しました。同社は大手企業との共同開発を行い、日本各地に水耕栽培装置を導入。また南極の昭和基地や、モンゴルにまで植物工場を導入させるなどして、申し分のない実績を重ねていただけに業界関係者は衝撃を受けました。

植物工場の動向に詳しい千葉大学の古在豊樹名誉教授(NPO法人植物工場研究会理事長)は、

「現在、植物工場に参入している企業は200社弱で、うち黒字が確実なのは15%で、黒字化しつつある(単年度では黒字だが、工場建設の減価償却はまだ)のが10%。残りの75%は赤字です」(「週刊エコノミスト」)

と現状の厳しさを述べています。

かつて異業種から農業分野に進出したものの失敗してしまった例としては、オムロンが挙げられます。1997年、同社が持つ世界屈指のセンシング技術(センサーを利用して物理量や音・光・温度などを計測する技術)を背景に農業に進出。北海道千歳市郊外でトマトの栽培事業を開始しましたが、自然相手の農業は計算通りにはいかず、3年未満で撤退を余儀なくされました。

アパレル業界で飛ぶ鳥落とす勢いのユニクロ(ファーストリテイリング)も、2002年に農業分野に進出しましたが、思ったよりも消費者に受け入れられず28億円の赤字を出して2004年に撤退しました。

多数の失敗から“成功”は登場するもの

こうしたニュースを聞いた人の多くは、「大企業でも失敗したのだから、異業種が農業分野に参入することは容易ではない」と考えるのが普通でしょう。しかし、IoTを使った農業に大きな可能性があることは否定できません。数多くの失敗の中から、いずれはキラリと光る成功例が登場することでしょう。

ユニクロの象徴的存在でもある会長兼社長の柳井正氏は、著書『一勝九敗』で語っているとおり、成功の倍以上に失敗を経験しています。むしろ失敗しても、なお立ち上がってきたからこそ、あそこまでの規模に成長したといえます。IoTによる植物工場の挑戦も、まだ始まったばかり。新しい農業の可能性を大いに期待したいところです。