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ロボットとIoTで林業は “儲かるビジネス” になる

国土面積の約7割を森林が占める、森林大国・日本。この豊かな資源に恵まれた日本の林業界に、ロボットやIoTを駆使した「スマート林業」を導入し効率化を目指そう、林業を活性化し「儲かるビジネス」にしよう、という取り組みの一環として、第1回最先端スマート林業シンポジウム「儲かる林業の実現に向けたロボット& IoTの活用」が2017年8月2日に開催されました。

「スマート林業」の最前線を支えるロボットビジネスを紹介

基調講演では3者が講演。まず、本セミナーの主催でもある三井住友海上火災保険株式会社の北河氏が登壇し、一次産業におけるロボット導入の最新事例として、無人トラクターや収穫・箱詰め・除草ロボットなどさまざまな開発例を紹介しました。今後もロボットビジネスのプロデュースやユーザー・開発者・企業のマッチングを進め、林業やその周辺のビジネスを活性化することが地方創生や日本の産業の元気になれば、と志を語ります。

▼ 社会課題の解決と成長産業創出の切り札としてロボットの開発・普及促進を図りたいと語る北河氏

次に登壇したのは株式会社アドイン研究所の佐々木氏。同社では赤外線レーザーを使用し、周囲の空間を3次元的にスキャンできる森林3次元計測システム「OWL (Optical Woods Ledger)」を開発しています。1点の計測時間は45秒、10メートルほどの間隔でスキャンを行うと、20平方メートルの広さをわずか約10分で計測完了。OWL計測装置からは3D立木データと位置図データが得られ、さらにPCでリアルタイムにそのデータを確認できるとのこと。このOWLで得られたリアルタイム情報をマーケットで活用することが高収益化に繋がり、さらにドローンそのほかのロボットとの連携、AIの活用で、同時にエネルギー問題や地産地消問題、農業問題の根本的な解決に繋がれば、とビジョンを語りました。

▼ ドローンやロボットと連携し林業のプラットフォームを作りたいと語る佐々木氏

3人目にはこちらも主催である東京電機大学未来科学部の岩瀬氏が登壇。「森林の見える化」をテーマに、同大学ではドローンにレーザースキャナーを搭載して森林の状態を計測するといった研究プロジェクトに取り組んでいます。森の外側からドローンで観測したデータだけでは情報量に不足があり、では森の中を、木々の間を縫ってドローンを飛ばせないかという発案から始まったこのプロジェクト。長時間飛行が可能なエンジン型ドローンを開発、風雨にも強く枝木などの障害物回避機能を併せて研究を進めているとのこと。

▼ 埼玉県産学連携研究開発プロジェクト「スマートフォレストIRT」の一環であるエンジン型ドローンを紹介する岩瀬氏

地方創生を実現するには? 各自治体における林業ビジネスの取り組み

基調講演に続いて行われたセッションでは各自治体や企業の取り組み、事例が紹介されました。
角館や田沢湖が有名な秋田県仙北市は、林業・農業のIT化や観光産業へのIoT導入を目指してさまざまな取り組みを進めています。また、あらたな産業づくりのためにドローンの活用を模索しているとのこと。

▼ 大雨による災害が発生した際、災害状況の把握にドローンがとても役にたったという経験を基に、物資の配送や人が入らないエリアの状況確認などで活用を検討していきたい、と今後の展望を語る秋田県仙北市 総務部地方創生・総合戦略統括監 小田野氏

静岡県浜松市からは浜松市産業部 鈴木氏が登壇。浜松市では「浜松版グリーンレジリエンス」と銘打ち、地元の資源であるブランド木材「天竜材」の利用拡大と、儲かる林業の実現に向けた林業木材産業振興に取り組みながら、同時に国際森林認証制度(FSC)に基づき環境的な側面である森林管理を並行して進行。自然資源を活用し、地域の防災・減災と地域振興を同時に達成していくことを目的としたこの取り組みで地方創生の実現を目指しています。

▼ 浜松市ではICT・IoTを利用した需要・供給情報の共有化や販路拡大、ドローンを活用した資源情報などの把握技術について開発を進めている

地域経済の活性化やビジネスモデルの構築など、地域ビジネスを支援している合同会社ツクルのセッションでは、インバウンドとアウトバウント双方を強化し、ローカルに収益を生んでいる、林業と地方創生の成功事例が紹介されました。

▼ 森林資源を活用した地域振興の実現には、ITやロボティクスをどう取り入れていくかという視点が重要であると語るツクルCEOの三宅氏

開発が進む農林業ロボット、今後はAIやディープラーニング領域が強化されていく

セッション後半は、「モノ」にフォーカスしたセッションが続きます。
徳島県徳島市に本社を置く商社である港産業株式会社が取り扱う「アシストスーツ」は、腰の補助や労働の軽量化を図る目的のウェアラブルロボットです。各メーカーからさまざまなアシストスーツが開発されていますが、本セミナーでは株式会社イノフィス製のアシストスーツを展示。

▼ 本セミナーのテーマである林業においても、農業や医療介護においても問題になっている、少子高齢化社会での有効活用が期待できると紹介する港産業の野口氏と展示されたアシストスーツ

ドローンやAI、ロボットなどの開発を行う株式会社エンルートラボは、AIを搭載し不時着の際にビルや道や川などを上空から見分けて、安全度のプライオリティを見極めることができるドローンの開発事例を紹介。飛ぶことだけでなく「情報を集めてくる」という点もドローンの大きな目的の1つとの考えから、同社では画像処理やセンサーなどにも力を入れているとのこと。

▼ 収集したデータが重要な要素であり、儲かる部分であると語る同社代表の伊豆氏。昨今ではクラウドサービスで、簡単にアプリケーションサービスが使用できるので、データの利活用がしやすくなっていると解説

岐阜大学では林業家からの要請により枝打ちロボットを開発。これまでの枝打ちロボットと比較し大幅な軽量化や省電力、枝噛み防止機能、故障時の対応のしやすさなどを実現させながら、さらにリアルタイムで木の情報を伝える仕組みを考案。人が高い木に登らなくても枝打ちができるロボットを簡易に設置できるため、実用化が進めば林業従事者の負担は大幅に軽減されながら、データの蓄積にも役立ちます。

▼ これまでも枝打ちのロボットはあったものの、サイズや重量に起因する課題や、チェーンソーの枝噛みという機能的な問題があり、日本市場ではあまり普及していないという背景があったと説明する岐阜大学 工学部機械工学科の川﨑氏

森林は宝の山となるか―ロボットやIoTが、日本の経済的ポテンシャルを引き出す

自治体や企業のさまざまな取り組みや開発事例が紹介された本セミナーでは、林業の活性化、資源の有効活用によって経済効果と環境保全の両立を目指せるだけの「日本のポテンシャル」が掲示されたものでした。森林資源に恵まれていながら、日本の木材自給率はそれほど高くない現状。そこには経営として成り立たないという深刻な課題が存在しました。林業従事者の高齢化が進み、後継者のいない山林は放置され、森林は荒れた状態のまま増加していく。一方でアジアなどから木材を輸入し、輸出側の国では急激な森林伐採による環境破壊が大きな問題になっています。
ロボットやIoTを駆使した「スマート林業」の推進が、このループを断ち切り理想的なエコシステムの構築を実現していくでしょう。これから発展していくスマート林業ビジネスは、AIやIoT、BIシステムやストレージ関連事業従事者にとっても広大なブルーオーシャンなのではないでしょうか。

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