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AIが支える超高齢化社会~後編~

前編では超高齢化社会の日本が抱える問題と、AIへの期待をご紹介しました。後編では実際にどのようにAIを高齢化社会に活用していこうとしているのかをご紹介します。

 

超高齢化社会 政府の対応

超高齢化社会の抱える課題について、国はどのような対策を考えているのでしょうか。
2016年に経済産業省が公表した「新産業構造ビジョン」では、第4次産業革命によって起こる変革のイメージとして、

  • 健康/医療関連データの利活用により、各個人に見合った健康・予防サービスを提供する事が可能に。
  • 人工知能により認識・制御機能を向上させた医療・介護ロボットの実装が進み、医療・介護現場の負担を軽減。

引用元:「新産業構造ビジョン」~第4次産業革命をリードする日本の戦略~|経済産業省(PDF)

という内容を新たに提示しています。国としても、人口減少や少子高齢化などの社会課題に対応するため、AI、IoT、ロボットなどを活用した第4次産業革命へのパラダイムシフトを進める方針であることが見て取れます。
この政府の方針は、現在の産業構造を維持したままでは低成長構造に陥り、2020年の名目GDPは547兆円に留まってしまうという懸念から生じているものと思われます。また、仕事を“人にしかできない分野”に移行し、技術革新によりその穴埋めを行った場合は、名目GDPは2020年に592兆円に押し上げることができるというシナリオを描いています。

AIで健康寿命を延ばす取り組み

2025年には認知症患者は700万人を超え、高齢者の5人に1人が認知症になると推測されています。前編では、超高齢化社会にあっても経済発展を続けていくためのキーとして「女性」「移民」「高齢者」「テクノロジー」があることをご紹介しましたが、高齢者が経済発展を支えるためには、健康で質のよい生活を送る必要があります。AIを活用した健康寿命を延ばす取り組みをご紹介しましょう。

  • 認知症患者のリハビリにAIを活用

認知症になり、日常生活における様々なことができなくなると、症状はさらに進みます。しかし、人工知能によって認知症患者の行動をうまくサポートできれば、自然とリハビリ効果が生まれます。
大阪工業大学の佐野睦夫教授の研究室では、AI技術を使って認知症患者が安全に料理をするシステムを開発しています。小さなモニターとカメラの付いた「スマートグラス」をつけて包丁を使うと、包丁から数秒間注意が逸れて別の方向を見てしまったときにモニター上に警告が表示されます。カメラが撮影した映像はサーバー上でリアルタイムで解析され、スマートグラスに結果を送ることを何度も繰り返し、音や振動で警告を発してくれるシステムです。このようなサポートの元、認知症患者が自立的に料理を行うことで自然なリハビリテーションが可能になります。
<参考・参照元>
{探る} 仮想現実、AI体験 脳鍛え 認知症の「特効薬」 : 地域 | 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

  • AIで認知症が治る未来へ

認知症は脳の病気。なんとか薬で治癒できないものか、という切なる願いも湧いてきます。実は治癒できる日もそう遠くはないかもしれません。
エーザイは慶応義塾大学と認知症の薬を開発する共同研究を開始しました。慶応大の信濃キャンパスにラボを設置し、認知症の原因や、遺伝・環境と病との関係、体内に発症を防ぐ仕組みがあるかを調べます。膨大な量の分子データの解析にはAIが使われる予定で、開発のスピードを上げることを目指しています。
認知症については2011年に新薬が投入されて以降、国内では新薬の開発に相次いで失敗しています。2016年11月には、アメリカのイーライリリー社のアルツハイマー型認知症治療薬「ソラネズマブ」が認可を目の前にして開発を断念し、業界に大きなショックを与えました。現存する認知症の薬は進行を半年~1年程度遅らせる程度で根本治癒の効果がないため、創薬の成果が待たれます。
<参考・参照元>
エーザイ、慶大と認知症薬を共同研究|日本経済新聞

  • 認知症の早期発見で治癒を目指す

認知症はある日突然発症するわけではなく、徐々に進行していくもの。生活に影響がでてくる時点では症状は相当に進行している状態ですので、できる限りそういった状況になる前に早期発見できれば治癒の道も開かれてきます。
アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)では、AIと、1秒間に80回記録されるデジタルペンを使って認知症の診断がよりスピーディーに行えるソフトウェアを開発しています。
認知症の早期発見に有効なテストのひとつとして行われている、“指示された時刻を示すアナログの時計の絵を描く”というクロッキーテスト。これ自体は従来から頻繁に使われていた方法ですが、このデジタルペンでは認知症患者が描いている時のペンの動きや、ためらった時の精密な情報をデジタル化し、AIで客観的な診断を行います。
<参考・参照元>
Could a pen change how we diagnose brain function? | MIT News(リンク先英文記事)

今回は認知症を食い止めるための創薬、診断、リハビリテーションにおけるAIの活用をご紹介しました。“2025年”まではあとわずかですが、AIの進化が高齢化のスピードに追いついてくれば、認知症などの完治が困難な病気の未来にも新しい可能性が開けてくるかもしれません。

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