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人による作業では到底なしえないスピードで膨大な情報を処理し、新たな価値を見出すAI(人工知能)は、急速な勢いで市場に進化をもたらし始めている。その具体的な事例は、開発当初の人々が抱いていた「人とAIの共生」といったイメージをはるかに超えるベネフィットを提供することに成功しており、既に革命的な事例も示現し始めている。
その一方で、必ずしも人に利益をもたらすとは限らない利用事例も顕在化しつつある。現在の状況下における、IT企業のAIの開発は、人にとって役に立つ明確なイノベーションを視野に入れて行われており、一見しっかりとした成果と人の作業との共存をもたらしつつあるように見える。しかし、利益と生産性だけの追求に走りすぎれば、人の行動とのバランスを大きく崩すことになるかもしれない。

人とAIの共生を口にするのは簡単だ。しかし、実際の社会にAIが導入されることで見えてくるであろう、光の部分と影の部分は、私たちの想像をはるかに超えるものとなるだろう。なかなかうまく共生できていない分野も含めて、人とAIの現在について詳しく見ていきたい。


医療に貢献するWatson利用の取り組み

今年10月、米国ラスベガスで開催されたIBMの年次カンファレンス「IBM World of Watson 2016」の基調講演では、東京大学医科学研究所教授でヒトゲノム解析センター長の宮野悟氏が、IBMの人工知能Watsonを活用するがん治療の事例を紹介し、大きな注目を浴びることとなった。ガンのゲノム治療は、スーパーコンピュータで細胞の変異についてのデータを抽出し、その結果を論文や報告書と照らし合わせて調べるが、ゲノム治療に活用できる生物医学の論文は膨大な数があり、その全てを把握するのは不可能に近いそうだ。そこで、自然言語による文章理解が可能なWatsonを活用し、実際にがん治療で東大病院に入院していた女性を救ったケースが紹介された。東大病院にWatsonがやってきたのは2015年7月のこと。研究目的での提供であったが、この患者さんのゲノム解析は終わっていたため、Watsonによる分析を実行。10分間で解析が終わり、提示された結果を確認したところ、別の白血病を発症している可能性があることが分かり、すぐに新しい抗がん剤を出したところ、病状は完全に回復。患者さんは約2カ月後に無事退院したという夢のような話が現実のものとなっている。
IBMのロメッティ会長--AIの恩恵は脅威をしのぐ

コモディティ化する業務がAIに取って代わられるのはもはや宿命

コモディティ化しつつある人の業務が、AIに取って代わられようとする動きもまた表面化している。近年、多くの研究機関やシンクタンクが、将来的にコンピュータに取って代わられることになるであろう仕事のリストアップをしては公表しているが、これまで人力でなんとかしていた業務をAIに取って代わられてしまうのはもはや宿命とも言うべき事象であり、江戸時代に人が背中に担いで運んでいた荷物を汽車やトラックがそれに取って代わって運搬するようになったことと大きな違いはない。これらを理由に、人とAIとの共生を図ることができないとするのは明らかにナンセンスといわざるを得ない。AIの登場で、人の労働はより人でなくてはできないところへシフトすることが期待されている。

必ずしも人の役に立つとは限らない、金融市場におけるAI利用

しかし、既にかなりの人の役に立つAIが登場している中にあって、必ずしもうまく人の役に立てていないAI利用のケースも露呈し始めている。その典型が、金融市場におけるAI利用のアルゴリズム取引だ。

2014年、マイケル・ルイスの小説であるフラッシュボーイズが市場で話題になったことがあったが、10億分の1秒で人よりも先に取引することで利益を得るという高速取引が金融市場で流行り、そこから多様なアルゴリズムによる取引が株や為替市場を席捲するようになってきている。スピードの問題だけならばある程度致し方ないとも言えるが、最近ではアルゴリズムが金融メディアのヘッドラインを即座に読み込み売買を行うことから、アルゴリズムの発動によりいきなり相場展開が変化し市場に多大な影響をもたらすケースも少なくなくなってきている。
直近のアメリカ大統領選挙においてもトランプ候補優勢が明確になった時間帯までは株も為替も相場が大きく下げる展開が続いたが、勝利が確定した段階から一気に債券が売られ、金利が上昇して為替はドルを中心に上昇し、資金が株に流れ込むという怒涛の展開となった。人の裁量取引では、さすがにここまでドラスティックには展開できないと思われる動きを、AI主導のアルゴリズムがやってのけた可能性が極めて高いという。結果として相場は投げと踏みの応酬となり、多くの市場参加者が儲けを出せない状況となった。

そもそもこうしたAIを多用して売買を行うヘッジファンドも全く儲かっておらず、ブルームバーグが発表しているデータによると、約300兆円ほどの運用規模を誇るヘッジファンドの過去3年間の業界リターンは年平均2%と、大半のインデックスファンドを下回る状態で、成績不振と高額な手数料を嫌悪して多くの機関投資家がファンドから資金を引き上げる動きも見られている。ブルームバーグの報道では、この1月から9月までの累積でもざっと515億ドル、日本円にして5兆2000億円以上の資金が引き上げられており、AIを利用しても必ずしも投資に役立つとは限らないことが読み取れる。

顕著に人の役にたつ領域もあれば、何の役にたっているのかよくわからない領域も混在しはじめているのがAI利用であり、人の生活に根本から貢献できるように利用設計ができているのかどうかが非常に重要になってきていることが理解できる。