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「儲かる農業」とIT~後編~

前回は農業の変革を迫られる背景と、変革への取り組みについてご紹介しました。ITベンダーも農業ベンチャーと協業、出資するなど社会インフラを形成するためのシステムの提供に注力しています。 現在提供されているソリューションについてご紹介しましょう。

暗黙知を落とし込んだ「Akisai」

エンタープライズITで創造的な変革をもたらしたものについて表彰するミライアワード2016。「食」部門のグランプリを受賞したのが富士通の「Akisai(秋彩)」です。社会インフラへの貢献として同社の重点分野としてあげられていた農業に役立つシステムを作るために、若手エンジニアを全国10か所の農家へ派遣しました。農家でのニーズを吸い上げるうちに、プロダクトアウトで考えていたことに気付いたといいます。農家の求めていたのは規模を拡大しやすいように経営をサポートするITでした。「強い農業」を作るために小規模農家がバーチャルに農業法人を形成することを想定し、データを農家が相互で共有し、自治体や農業協同組合(JA)と一体となって地域ブランドを確立する基盤を構築します。農家が持つ「暗黙知」をシステムに落とし込むことにこだわり、製造分野での生産管理のノウハウを活かしました。すでに熊本県のベビーリーフ農家である果実堂は6次産業化に取り組み成果を出しています。

 

データ収集で出荷量を試算「テラスマイル」

農業支援のITベンチャーであるテラスマイルはソフトバンクと協業して農業支援サービスを共同開発しました。テラスマイルは地方発のスタートアップで、インキュベーションプログラム「IBM BlueHub」で最優秀賞に選ばれています。
テラスマイルには農家と兼業している社員が多いため、社員の持つ知見と、1年以上かけて関係を築いてきた農家によるヒアリング、農業協同組合(JA)のデータ収集により蓄積したデータをもとにAIで天候や市況を加味した出荷量の試算等を支援します。初期費用や売上予測などの費用は無料で、一部有料サービスがあります。

 

消費者が野菜を栽培「遠隔農場テレファーム」

「遠隔農場テレファーム」はインターネットを介した地域支援型農業のサービスを提供しています。消費者がテレファームのシミュレータで野菜の栽培を開始すると、連動して実際の畑に作物を植えます。植えた作物は成長過程を日々写真で確認でき、収穫した野菜は消費者がオンラインショップを出店して販売することもできます。また、シミュレータで栽培しなくてもオンライショップ上で実際の畑で栽培した有機野菜を購入することができます。株式会社テレファームの遠藤忍社長は今までの農業は収入が年に1回しかなく、始める際に機械の購入など多額の出費が必要になるという課題を解決して、異業種から参入しやすくしたいと考え、テレファームの仕組みを構築します。
2016年6月23日には楽天の出資も発表されました。今後高付加価値野菜の展開をさらに加速させていく予定です。

今までご紹介したものは、小規模農家を集めて組織化することを想定していますが、最後に4次産業化の事例として小さくて強い農家、久松農園をご紹介しましょう。農地を5haに限定し、注文をもらってから収穫する方式を貫いています。小さな農園であるために安定供給や物量についてはハンデを持っているため、レストランや契約消費者に直接販売して、収益を維持しています。

このように試行錯誤してインフラを整え、農業に関するデータについてもすべて共有化しているそうです。また、農業未経験者には使用が難しい器具などは持たせず、作業の手順は全てマニュアル化して共有しておくことで、経験が浅い人は予習してから作業に臨めるようになっています。

農業を取り巻く環境が激しく変化する中、さまざまな形態での取り組みが進んでいます。どれをとってもIT活用は必須で、ITを作ってどのような仕組みづくりをしていくかということがキーポイントになるでしょう。

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