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Nest社から見えてくるIoTの未来

ここ最近、経済ニュースでIoT(Internet of Things、モノのインターネット)という言葉を見ない日はありません。あらゆるものがインターネットに繋がるという概念で、本サイトにも多数の関連記事があります。とはいえ、どこのメーカーもまだ試行錯誤の段階。「とりあえずスマホと連動してみました」という珍妙な製品も少なくありません。それでもやはり、かなり先進的な取り組みをしているベンチャー企業があります。その名はNest社。このベンチャーを見ていくと、IoTの未来像が掴めるかもしれません。

創業者は元アップルのスゴ腕エンジニア

Nest社は2010年、トニー・ファデルとマット・ロジャースによって設立されました。このトニー・ファデルは元アップルのエンジニアで、しかも初代iPodの開発を率いて成功させたスゴ腕の人物です。ちなみに、初期iPhoneのデザインにも関わっています。2008年にアップルを退職して、その後Nest社を創業したというわけです。

では、このNest社は、どんなIoT製品を作っているのでしょうか。元アップルのエンジニアのことです。さぞかしスゴイ製品を作っているのでしょう。スマートウォッチ?自動運転車?スマートホーム?

実はどれも違います。正解はサーモスタットと火災報知機という、かなり地味なものです。少なくても、一般の人が使うものではありません。では、この製品のどこがIoT製品なのでしょうか?どこにネットワークにつなげる必要性があるのでしょうか?

サーモスタットで大ブレイク

火災報知機はともかく、サーモスタットとは何でしょうか。ざっくり言うと、室温調整装置。日本では部屋ごとにエアコンを設置していますが、欧米では家全体で温度管理する全館冷暖房(セントラルヒーティング)が主流で、その中心になっているのがサーモスタットなのです。建物の隅々にダクトが張り巡らされ、温風や冷風が行きわたるようになっているのです。とくにアメリカでは、8割以上の家屋がこの方式を使っています。

かなり以前のサーモスタットでは、ただ一定の室温を保つだけでしたが、最近のものは時間や温度を予め設定することができます。起床・就寝のときに過ごしやすい設定にするとかですね。

このニッチな製品にNest社は目をつけ、しかも人工知能を組み込むことを考えました。なんと同社のサーモススタットは、家に人がいる時間帯を自動で学習します。こちらが時間を設定するのではなく、「何時くらいになると帰宅するので、室温を高めておこう」と自動的に行ってくれるのです。

加えて、ネットワークによってスマホアプリ、火災報知器、洗濯機、照明などと連動できるように設計されています。つまり、初めにスマートホーム構想があって、それを実現するための機器として、製品を作っていたというわけです。発想が凄すぎる。

2011年にNest社から発売したスマートサーモスタットは売れに売れ、同社は一気に表舞台に駆け上がりました。そして、2014年に巨人Googleが32億ドルで買収。Googleの傘下になったことで、スマートホーム構想の実現がさらに高まったというわけです。

 

生活の役に立つ製品づくりを

Nest社の動きは、IoT製品やスマート家電の普及を考える上でとても参考になります。なぜ同社製品が受け入れられたのでしょうか?ネットワークにつながる最新機器だからでしょうか。おそらく違うと思います。初めの前提としては、「生活の役に立つ」からだと思います。事実、同社のスマートサーモスタットを設置すると、電気代やガス代を20%ほど節約できるといいます。ヒットしたのは、まずこれがあったからでしょう。

その上で、未来的なデザイン、創業者の華麗なる経歴、Google買収というトピックスが加わり、注目がさらに集まったのだと思います。

他メーカーのIoT製品を見ると、この「生活の役に立つ」という視点が欠けているように感じます。スマホと連動すればいい、デザインが奇抜であればいいという観点で製品がつくられている感じがします。結果、あまり話題になるような製品が生まれていないようです。

高齢者に役に立つ、赤ちゃんに役に立つ、仕事に役に立つ・・・。考えれば、役に立つアイデアはまだまだあるでしょう。IoT製品が話題になるなか、メーカーにはそうしたモノづくりに期待したいところです。